~高齢者がしっかり食べられる食事の取り組み③~
今回は誤嚥・脱水防止委員会でもう一つのメインで取り組んでいる、口の動かし方や入れ歯の使用などの『口腔環境』の改善について、藤澤さんにお話を聞いたので紹介したいと思います。
ハートちゃん(以下「ハ」):
「前回のインタビューでは、机や椅子、食器などの『周りの環境』の改善について様々な取り組みをしているとお聞きしました。では、もう一つメインで取り組んでいる「口腔環境」の改善には具体的にどのような取り組みをしているんですか?」
藤澤(以下「藤」):
「食事をする時に重要な要素のひとつが口の中や歯の状態などの『口腔環境』にあります。その改善のためにまず、口の中を綺麗に保つことを目標にしました。高齢になると唾液の分泌量が減り、自浄作用が低下したり、口腔内が乾燥する「ドライマウス」になったりします。自浄作用が低下すると加齢による免疫力の低下も相まって、虫歯や歯周病にもなりやすくなってしまうんです。」
ハ:「口の中にもトラブルの元が…!」
藤:「それに、舌にある味を感じる「味蕾(みらい)」という器官に汚れが付いていると味を感じにくくなったり、味覚が変化してしまうこともあるんです!」
ハ:「ご飯を美味しく食べるためには、口の中を綺麗にすること、つまり、歯磨きが大事!ということですか?」
藤:「そうなんです。口の中や歯を健康に保つことが食にも繋がるということ。そこで、「歯磨き(口腔ケア)をしっかりしよう!」と、歯科受診の推奨、歯科衛生士の資格を持った職員が訪問し、口腔内の状態の確認、自身で歯磨きをされるご入居者や口腔ケアをする職員に口腔ケアの指導を行うようになったんですよ」
藤:「口腔ケアに必要な道具と言えば、もちろん歯ブラシです。毎日のことなのでスムーズに行えるように、すべてのケアホーム(有料老人ホーム)に歯ブラシ保管庫を導入しました」
歯ブラシ保管庫
湿気を含んだ歯ブラシ上で繁殖する原因菌を除去し、歯ブラシをクリーンに保つ小型のケースです。
歯ブラシホルダーに入れてドアを閉め、スタートボタンを押せば紫外線殺菌と熱風の乾燥が始まり、独自の遠赤外線熱風と紫外線灯による相乗効果で素早く乾燥・消毒殺菌できます。
↑少し中がくらいのですが、このように歯ブラシを衛生的に保管しています。
藤:「入れ歯も噛む、食べることに必要な道具のひとつ。歯ブラシの保管と合わせて、入れ歯(義歯)を使っている方が、それぞれご自身のものが口に合っているか見直しました」
ハ:「義歯は食事になくてはならないものですよね」
藤:「確かにそうなのですが、実は入れ歯がない方が食べやすい方もおられるので、お一人お一人の環境や体調を見ることが大事なんですよ」
ハ:「義歯がない方がいい場合もあるんですか!それはびっくりです!」
藤「例えば、当社ケアホームにご入居されているAさんの場合は……」
■ケアホームのご入居者Aさんの場合…
ケアホームにご入居されているAさんは、ご家族の希望で義歯をつけて食事をされていましたが、食事形態がミキサー食(ペースト状の食事)での食事だったので、本人にとっては義歯をつけながらの食事は逆に時間がかかり、食べにくさを感じておられました。
普段Aさんは義歯をつけていなくても会話に支障はありません。今は義歯を外しミキサー食でスムーズに食事をされています。
ご家族の「しっかり食べてほしい!」という気持ちは、職員も同じです。ご家族が安心して、ご本人も美味しく、しっかりと食事ができるよう、その人の食事の意欲や楽しみを持てる適切な食事環境を提案していきたいですね。
藤:「高齢者は細かい動きをすることが難しく、磨き残しや逆に強く磨きすぎて歯茎を傷つけてしまうことも心配です。磨きやすい歯ブラシを使うことが大事なんですね」
ハ:「ケアホームではどんな歯ブラシを使っているんですか?」
藤:「一般的な歯ブラシと、歯ブラシを動かすことが少し難しい方はブラシが円状についた特殊歯ブラシを導入しています。ハートちゃん、よかったら見てみて」
ハ:「わあ!先端のブラシも毛が密で軽くて磨きやすそうですね!私のくちばしを磨くのにもよさそうです♪」
藤:「歯ブラシは衛生商品なので箱から出せず、見えにくいですが…こんな感じで全方向がブラシなので、一般的な歯ブラシのようにヘッドの硬い土台部分が歯茎に当たったりすることがなく、怪我をしにくくなっています」
藤:「他にも、誤嚥しやすい方へは唾液の吸引機能付きの歯ブラシを導入したり、症状や口の状態に応じた特殊歯ブラシを取り入れたりしています」
ハ:「食事のことだけでも、食事の姿勢や食器、口腔ケアなど様々な取り組みをしているんですね」
藤:「そうですね、今までの取り組みでは食事シーンを撮影した動画から食事形態の評価を行い、動画を観ることで机の高さや食事時の姿勢等について、話し合いを重ねてきました。改善することで誤嚥リスクを軽減したり、自助具を導入し食事量が増えたり、食べたい食事形態に変えたり、『食べる楽しみ』について考えてきました。
食事は楽しみでもあり、また生命をつなぐものでもあります。
今までの取り組みを大切に、肺炎での入院の減少、誤嚥ゼロを目指し、口から食べられるように様々な角度から検討を重ね、もっともっとご入居者の方の食事がより良いものになるようにしていきたいですね。
これからも各ケアホームと誤嚥・脱水防止委員会で一緒にご入居者お一人お一人の食事に関する課題について話し合い、健康で食べる楽しみがある生活を送っていただけるよう、また、職員は誤嚥・脱水防止委員会に参加することで介護技術、知識の向上ができたらと考えています」
ハ:「藤澤さん、ありがとうございました!」
藤澤さんからの委員会の紹介はここまで。
全3回にわたり「食事をすること」への取り組みをご紹介してきましたが、次回は言語聴覚士の専門職から見た当社の「食事」への取り組みを紹介したいと思います。
どうぞ次回もお楽しみに!