本人像:80代女性/要介護4 胃潰瘍、ラクナ梗塞、高血圧症、認知症
利用までの経緯
認知症の進行により独居生活での生活管理能力が低下。部屋の整理整頓もできず、1年中コタツで寝起きし、外出を面倒がる。入浴など身の回りのことができないにもかかわらず「できている」と言い、清潔も保たれていないので親族が心配し訪問介護サービスの利用開始となる。
援助の働きかけ
気が優しく働き者であった昔は人の世話になったことがなく気ままに生活していたため、ヘルパーの訪問に対し、「年寄り扱いして…まだまだなんでも一人でできている。来ないでほしい」と訪問拒否を繰り返した。サービスキャンセルが3回続き、一時サービス保留になったこともあったが、週一のサービスから再開し、本人の生活スタイルを大切に根気よく話をゆっくり聞くことに努め、常勤ヘルパーで対応した。訪問の際は、ヘルパーを名乗ると「用はない」と怒って拒否するため、名前を言って玄関扉を開けてもらい本人の話を傾聴することに徹した。お話好きのため、根気よく話を聞いているうちに信頼関係ができた。
(1)家事援助のタイミング
話を聞きながらさりげなく台所で手を洗わせてもらうなど台所へ行くきっかけを作り、シンクに食器がいっぱいなので「一緒に食器を洗いましょうか?」とさりげなく声かけをした。機嫌が良ければ一緒に洗ってくれた。食品の買い物については「一緒に買い物に行きましょうか?」と声かけをし、応じてくれれば買い物に同行した。
洗濯に関しては、「洗濯します」と言うと「せんでいい、自分でできる」と言うので洗濯機に洗濯物を入れて洗うことにし、洗濯が終わった時に「洗濯できてるよ。一緒に干しましょう」と言って誘うことにした。調子の良い時は一緒に干せるようになった。
(2)身体清潔
信頼関係ができたらデイサービスを利用するように勧めた。入浴することは伝えず、とりあえず送迎車でデイに送り出してみたが、やはりデイで激しい入浴拒否があり、しばらくヘルパーに対しても「裏切り者」と罵っていた。しかし、認知症のためその後すぐに忘れ、ヘルパーとの信頼関係に影響はなかった。次に、ヘルパーから入浴への働きかけをしてみたが、失敗に終わった。しかし、顔の清拭はさせてもらえるようになった。
サービス開始から6年後、ヘルパー事業所と同じ営業所内にデイサービスができたことをきっかけに、コーヒー好きなので「喫茶店に行こう」と誘ってデイに連れて行った。そこには顔馴染みのヘルパーやケアマネージャーが居るので安心し、「ここやったら安心や」と言って入浴ができるようになった。
結果とまとめ
サービス開始当初は、よく怒って入室も拒否していたが、根気よく話を聞き、コミュニケーションを図ることで一通りの家事援助が行えるタイミングがつかめるようになった。現在でも「何でも自分でできる」と言っているが、体力低下もあり、ヘルパー拒否はなくなった。長い間の課題であった入浴については、ヘルパー事業所にデイができたことと顔馴染みのヘルパーが居て安心したことで入浴拒否はなくなった。
ヘルパーの仕事は家事援助や身体介護サービスを通して利用者の生活を支えることであるが、それ以上に利用者との信頼関係を築く力が大切である。
本事例は、認知症で介護拒否の利用者に対し、ヘルパーがサービスを焦らず対話により根気よく信頼関係を築いたことで、一通りの家事援助が行えるまでになり、利用者の生活を支えることができた事例と言える。