本人像:60代女性 要介護度5 統合失調症、慢性関節性リウマチ
利用までの経緯
夫・息子・娘・孫の5人暮らし。本人は関節リウマチで両手指に変形があり、統合失調症である。歩行は不安定で手引き歩行の状態。食事は自分でできるが、排泄、着替えは介助が必要である。そんな妻の介護を夫は一人で担っており、そのストレスから妻に対しての虐待が徐々にエスカレートしていった。息子は介護にも虐待に対しても無関心で、娘も知的障害があるので介護への協力は難しい状況であった。夫は誰も信じられない、国も何もしてくれないと自暴自棄になっていた。保健所から相談がありサービス開始になる。
援助の方針と働きかけ
家庭内に抱えている諸問題を具体的に整理し実行していく力が世帯全体で弱いので、夫の悩みや困っていることをゆっくり親身になって聞くことから始め、夫に安心してもらうことを第一の目的とする。本人の問題(身体面・精神面・栄養状態)、長女と孫の子育て環境の問題、住環境整備の問題、介護負担感の増加によるストレス問題を各セクションの担当者が連携し合い、優先順位を協議していく必要がある。施設入所を視野に入れながら夫の介護負担軽減のためにもショートステイを利用し、各事業所で情報交換をして支援していく。
サービス開始
本人はデイサービスを希望していたが、夫は金銭的な心配をしているため、初めはデイサービスを週一回の利用でサービスを開始する。本人は入浴に満足していた。ショートステイも一度利用するが、本人に熱が出て呼び出し・通院・看病とかえって負担が増えたこともあり、夫はサービスに不信感を抱いていた。そのため、夫のストレス軽減目的と妻の安全目的のために継続的にショートステイの利用を勧めても理解してもらえない状況であった。
介護者との信頼関係の構築
家族間で諸問題を抱えている家庭であるため、夫はどうしたらいいか分からないのに誰も手伝ってくれない、相談できる人もいないということで精神的に追い詰められていた。最初はただ夫の怒りや、医療やデイサービス、ショートステイ利用時の不信感などの話を聞くことだけに徹し、夫との信頼関係の構築に努めた。夫が排泄介助で困っているときなど、こうしたらいいよと手伝い、アドバイスもした。夫の精神安定のため、通常は月1回の訪問であるが、週一回以上に回数を増やし、本人・家族の了解のもと必要性を感じたら訪問して夫の悩み・問題点を整理していった。
医療・デイサービス利用時の不信感については、医師と連携をとり協力してもらった。デイサービスへの往診、担当者会議への出席により、医師が夫と面談しアドバイスすることで不安を取り除いてもらった。 そして、本人だけではなく家族全体の問題を聞いて一緒に考え解決しようとした姿勢や思いが夫にも通じ、ケアマネージャーは味方なのだと思ってくれるようになった。そうして、信頼関係ができたことで週三回のショートステイを利用するようになり、家族も休養ができ、一週間のリズムもできて、ヘルパーサービスの導入にも繋がった。
本人への支援
統合失調症のため気分にムラがあり、判断力に乏しく無気力である。虐待されても考えられず、これでいいんだと思ってしまうようである。本人は虐待があっても夫が好きでずっと家にいたいと思っているので、家族と一緒に在宅生活を続けるためにも、ショートステイを利用して家族の介護負担を軽減する必要性を根気よく説明した。清潔の保持については、デイサービスとショートステイの利用により定期的な入浴が可能となり、利用中は清潔を保持できているが、在宅中は不衛生な状態が続くことがあり、課題である。訪問介護サービス利用を増やすなどを検討中である。
結果とまとめ
信頼関係が築けたことでショートステイの利用となり、本人は24時間安心して生活でき、体調も安定し、家族も休養がとれた。こうした成功体験を積み重ねることで、夫は支援を受けることに否定的でなくなり、ヘルパーサービス導入にも結びついた。サービスを利用するようになり、夫の介護負担とストレスも少しは軽減できたようで、夫に笑顔も見られるようになり、虐待が減少したことは大きな成果と言える。
虐待については、最初デイサービスの職員から「あざがある」と聞くだけで状態を詳しく把握できなかったが、ヘルパー利用が始まると、夫は几帳面な性格からデイサービスの迎えの時間前に本人が準備に手間取ったりした時に、遅れてはいけないと思い手がでるということがわかった。夫のイライラをなくせば虐待もなくなると思われたので、夫の悩みをゆっくり傾聴し、相談にのり、解決することに努めた。
その家族の生活スタイル・環境は、急に変えることはできないが、本人の気持ちと家族の気持ちにズレがあっても根気よく諦めずに話を聞くことで、「この人は私たちの味方である」と感じてもらえることが問題解決の一歩前進になると実感した。介護サービスへの安心感と信頼関係を築けたことで、利用者とその家族にとってゆとりある介護生活を提供できた事例と言える。